歯と口のトラブル

歯の隙間を埋めたいが自力で埋めるのは危険?歯科でできる選択肢


歯と歯の隙間を埋めることはできるのか、すきっ歯をきれいに整えることはできるのかと感じている方は少なくありません。前歯の隙間は見た目の印象に関わるだけでなく、発音のしづらさや食べ物を噛みにくいといった機能面にも影響することがあります。原因は人によって異なりますが、適切な治療を選べば改善が期待できます。前歯に隙間が生じる主な理由と、代表的な治療方法について分かりやすくご紹介します。

歯の隙間を埋めることはできる?

前歯のすき間が気になって笑いにくい、食べ物が挟まって困る、写真で目立つなど、いわゆるすきっ歯(空隙歯列)のお悩みはとても身近に多いです。結論から言うと、歯の隙間を埋めること自体は可能です。ただ、なぜこの隙間ができたのかを見極めたうえで、適切な方法を選ぶことがとても重要です。原因によっては、見た目だけ埋めても残念ながら後戻りしやすかったり、別のトラブルにつながったりします。

ネット上には輪ゴムなどで歯を動かす自己流の情報もちらほら見かけますが、歯科医院としては、安全性の観点からおすすめしていません。まずは安全に歯の隙間を埋めるための全体像を押さえましょう。

結論:自分で歯の隙間を埋めるのはダメ

歯の隙間を埋めることを自分でやろうとすると、見た目以前に歯と歯ぐきの健康を損ねるリスクが跳ね上がります。特にSNS等で話題になる輪ゴムで寄せるなどの自己流の歯科矯正は、歯ぐきや歯の根に強い負担がかかり、炎症や細菌感染、噛み合わせ悪化などにつながり得るとされています。

歯並びや噛み合わせが崩れる
動かす方向や力の強さを誤ると、別の部分に隙間ができたり、前歯がねじれたりします。

歯の寿命を縮める
歯ぐきの炎症や細菌繁殖が起きると、歯周病リスクが高まりやすくなります。

痛みや知覚過敏
急激な力をかけてしまうと、歯の神経や周囲組織に悪影響を与え、痛みや知覚過敏などになってしまうことがあります。

歯の隙間を安全に埋めることができるかという点が重要です。歯の隙間を埋めたいと希望されるならば、歯科医院で原因を確認してから進めるのが近道です。

歯の隙間ができる主な原因

歯の隙間ができる原因は体質から習慣まで様々で、一つではありません。原因を押さえると、治療法選びが合理的になります。

歯の本数の問題

本来あるべき歯が足りない先天性欠如歯や余分な歯がある過剰歯は、歯が並ぶスペース配分が崩れて隙間が目立つことがあります。

歯の大きさと顎のバランス

通常よりも歯が小さい矮小歯、歯のサイズは普通だが顎が大きいなどの不調和があると、スペースが余って隙間になりやすいです。

舌癖や口周りの癖

舌で前歯を押すなどの癖や、指しゃぶりの癖があると、少しずつ前歯に力がかかり隙間が広がることがあります。

上唇小帯の付着異常

歯ぐきと上唇をつなぐヒダである上唇小帯が前歯の間に入り込むような形だと、隙間が閉じにくい要因になることがあります。

歯周病などで歯が動く

歯ぐきや骨の状態が悪化すると、歯が揺れて隙間が増える病的移動を起こすケースもあります。

歯の隙間を埋めるのは隙間だけの問題ではないことが多いです。まずは、原因が何であるのか、診察や検査をして知ることが大切です。

歯科医院で歯の隙間を埋める代表的な治療法

歯の隙間を埋める治療は、大きく歯を動かす歯列矯正か、歯の形を足したりかぶせる審美治療に分かれます。

歯列矯正

歯そのものを動かして隙間を閉じるため、原因にアプローチしやすい方法です。どのような症例かにより、ワイヤー矯正か、マウスピース矯正かなど適応が変わります。

  • 歯にブラケットを付けてワイヤーを通して動かすワイヤー矯正
  • マウスピースを装着し、期間が経てば交換して動かすマウスピース矯正

歯を動かす動的治療で隙間を閉じた後は、保定装置を装着して後戻りしないように歯の位置を固定する静的治療を行います。舌癖などの原因が残ってしまうと、後戻りしやすくなるため、なるべく癖を改善するようにしましょう。

ダイレクトボンディング

歯科用のコンポジットレジンで歯の形を少し大きくし、隙間を目立たなくする方法です。矯正治療に比べて短期間で終わることが多く、歯を大きく削らずに済むケースもあります。 一方で、経年劣化が起きるため、着色、摩耗、欠けなどが起きにくくなるように定期的にメンテナンスを行う必要があります。

ラミネートベニア

歯の表面を薄く整え、薄いセラミックの板を貼り付けて隙間を整えます。見た目の質感を重視したい人に向きますが、しっかり接着するために健康な歯を削る必要があります。

セラミッククラウン

歯をどの方向からも削って土台を整え、人工歯であるクラウンをかぶせて形や隙間、色をまとめて改善する方法です。短期間で印象を変えやすい反面、削る量がラミネートべニアよりも増えてしまうため、ダメージを受けやすくなります。

原因の治療

上唇小帯が原因なら上唇小帯の切除処置を組み合わせることがありますし、歯周病が関与していれば歯ぐきの治療が最優先になる場合もあります。歯が足りなかったり、欠損しているならば、矯正とブリッジなど複合的に計画されることもあります。

治療法の選び方

歯の隙間を埋めると言っても、正解は人によって変わります。選ぶ軸を3つに絞ると迷いにくいのではないでしょうか。

根本である原因を治したい
矯正と舌癖や小帯、歯周病などの原因対策を優先して長期安定を重視する

できるだけ早く見た目を整えたい
ダイレクトボンディングやラミネートベニア、クラウンが候補となるが、原因は残る可能性があり、後戻りリスクも含め相談が必要

歯を削りたくない
まず矯正やダイレクトボンディング中心で検討する。削るベニアやクラウンはメリットとデメリットを天秤にかける。

歯科医院では、隙間の大きさだけでなく歯の形、噛み合わせ、歯ぐきの状態、癖の有無まで見て提案する治療計画が変わります。見た目の自然さ、白さ、左右対称などのゴールも含めて伝えると、治療計画が具体的になります。

放置すると起こりやすい困りごと

歯の隙間そのものが必ずしも病気とは限りません。ただ、放置によって虫歯、歯周病、発音などの面でお悩みが増える人もいます。

  • 食べかすが挟まりやすく清掃が不十分では虫歯や歯周病のリスクが高い
  • 息の漏れやサ行が不明瞭などの発音の不明瞭さ
  • 写真や会話の際の見た目に対するストレス

食片圧入という食べ物の塊が挟まった状態のままで重度になってしまうと、骨吸収などの口腔トラブルにつながり得るという注意喚起もされています。

自宅でできる安全なケア方法

自宅で安全に歯の隙間を埋める方法は基本的にありません。一方で、歯科に行くまでの間や治療後の安定のために、自分でできることはあります。

今日からできるセルフケア

隙間に食べ物が詰まりやすい人は、歯科で指導を受けつつデンタルフロスや歯間清掃を習慣化することです。歯ぐきが腫れて出血しやすければ、隙間を埋める前に歯周組織のケアの見直しをする必要があります。舌で前歯を押す癖があるならば、まず安静時に舌がどの位置にあるかを意識して、必要に応じて専門的指導も検討しましょう。

やらない方がいいこと

  • 輪ゴム等で無理に寄せ、自己流で力をかける
  • 市販の材料で歯面を覆って固定する

清掃不良や、噛み合わせの悪化、歯が折れるリスクもあります。噛み合わせが悪くなると、顎関節にも負担がかかり開口障害や痛みを起こす可能性があります。見た目だけ何とかしたいと焦っている時にそのような情報を選択せず、安全に歯の隙間を閉じるために歯科医院へ行くことを優先してください。

よくある質問

歯の隙間についてよくある質問をまとめました。

質問 回答
Q1. すきっ歯は自然に治る? 子どもの生え変わり期の一時的に隙間がある場合は、成長とともに整うことがあります。一方で、永久歯がそろった大人の場合、自然に閉じる可能性は高くないとされています
Q2. 歯の隙間を埋める治療は保険が使える? 見た目の改善が目的の治療は、保険適用外の自費になりやすいです。保険適用の可否は症状や治療目的で変わるため、医院で確認しましょう。
Q3. 費用や期間の目安は? 治療法によって幅があります。矯正の場合は、装置の種類や部分矯正や全顎矯正など治療範囲によって費用帯が変わります。費用は医院、難易度、設計で変動するため、カウンセリング時の見積もりで判断するのがおすすめです。
Q4. 埋めたあとに後戻りすることはある? 舌癖、上唇小帯、歯周組織の状態など原因が残っていると後戻りしやすいです。保定(リテーナー)や原因対策が重要という考え方が一般的です。

まとめ


歯の隙間を埋めることは可能ですが、自分で埋めるのは歯並び悪化や炎症・神経トラブルなどのリスクがありおすすめできません。安全に歯の隙間を埋めるには、まずご自身の原因が、歯の本数か、顎と歯のバランスか、舌癖か、上唇小帯か、歯周病かという点を確認しましょう。そのうえで、矯正やダイレクトボンディング、クラウン、ラミネートべニアなどの原因治療を組み合わせて選ぶと安全です。見た目の悩みはもちろん、詰まりやすさ、発音、歯ぐきの不調がある人ほど、早めにクリニックで相談するとスムーズです。

この記事の監修者
医療法人真摯会 京橋クローバー歯科・矯正歯科
院長 小山 泰志

松本歯科大学歯学部 卒業。奈良県立医科大学附属病院 歯科口腔外科 入局。大阪の歯科医院にて歯科医師として勤務。クローバー歯科・矯正歯科あべの天王寺院にて勤務。

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